相続制度を否定する考え<行政書士ってナニ? 相続人調査編>

真栄里
相続人調査の依頼があるが、RIEやらないか?
RIE
まぁ、できなくはないですけど、ややこしい案件が多くて…
真栄里
だからこそ行政書士の出番だろ?
RIE
いいですけど。
どういった案件での相続人調査ですか?

真栄里
空き家の所有者探しだ。
RIE
最近問題の空き家ですね。
空き家でナニも利用していないんですから行政とかが勝手に更地にしたりして利用することができるようにすればいいんじゃないですか?
真栄里
そりゃ無理だろ。
どこかに所有者がいるんだから。
RIE
空き家は国庫に帰属させればいいんですよ。
民法にもありましたよね?
真栄里
無主物の帰属についての民法239条2項だな。

(無主物の帰属)
第二百三十九条 (略)
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

RIE
ほらね!
真栄里
よく読め!
「所有者のいない」不動産とあるだろ?
ということは、論理的に、所有者がいないかどうかを先に確かめないといかんのだよ。
相続人を探して、誰も相続人がいないとなった場合にその不動産は国庫に帰属することになるんだ。
RIE
そうでした〜。
もうめんどくさいから相続制度なんて無くしちゃえばいいのに!(投げやり)
真栄里
アホか。
いや待てよ。相続を否定する学者も世の中にはいるんだよ。
リバタリアニズム(自由至上主義)と呼ばれる自由思想から相続制度を否定する考えがあるんだ。
RIE
そんなバカな!
相続制度を否定??
共産制度の話ですか?それだったらわかりますけど?
真栄里
共産主義は理論上私的所有を禁じているから当然、個人が所有する私的財産というものはない。
だからその財産の相続ということも論理的に出てこない。
ここで言っているのは、私的所有権を認める制度の下で相続を否定する考えのことだ。
RIE
なぜですか??
真栄里
簡単に言うと、”自己所有権”は生きている人しか持てない権利だからだ。
つまり、人は、自分の死後に自己所有権を持たないんだ。
相続制度の下では、相続が発生するのは被相続人が死亡した時だ。
ということは、被相続人が死亡した瞬間、遺産に対する被相続人の自己所有権は消滅しているから、その遺産をどうこうする権利が被相続人には何もないことになる。
RIE
う〜ん…
わかるようなわからないような…
真栄里
たとえば、死亡により発生する損害賠償請求権のことを思い出してみ?
不法行為を勉強するときに学んだはずだが、理屈に従えば、被害者(死者)は、死亡により発生する損害賠償請求権を取得する余地はないんだ。
RIE
そうでしたっけ?
そうなら被害者の遺族が可哀想でしょ?
真栄里
今は可哀想とかそばに置いておけ。理屈の話なんだから。
続けるぞ。
死亡により発生する損害賠償請求権というのは、死亡によって生じた損害を填補するために被害者に認められる権利だ。それはOKだろ?
RIE
それはOKです!
真栄里
じゃ、被害者が死亡したときに、被害者自身がその権利を取得することはできるか?
RIE
できないんですか??
真栄里
権利を取得することができる地位(権利義務の帰属主体)をなんという?
RIE
たしか、権利能力でした。
真栄里
権利能力はいつ生じるんだ?
RIE
たしか、「出生」です。
真栄里
だな。民法3条1項に規定がある。

第二章 人
 第一節 権利能力
  第三条 私権の享有は、出生に始まる。
  2 (略)

じゃ、権利能力の終期は?

RIE
わかりません。
何条ですか?
真栄里
明文規定は実はないが、人の死亡によってのみ消滅すると考えられている(我妻榮「新訂 民法總則」岩波書店)。
RIE
へぇ〜、
権利能力は”出生”によって発生し、”死亡”によって消滅するんですね。
真栄里
そうだ。
死亡により権利能力は消滅するんだから、人は死亡すればもはや何の権利も取得し得ないだろ?
死亡により権利能力が消滅し権利義務の帰属主体が存在しなくなっているんだから。
RIE
まぁ、論理的にそうなりますね。
真栄里
ということは、死亡により発生する損害賠償請求権を被害者(死者)は取得し得ないことになるだろ?
被害者が死亡したことにより損害賠償請求権が発生するとしても、被害者が死亡した時点では権利主体たる被害者は既に死亡しているんだから。
RIE
まぁそうですね。
なんか言葉遊びな気がします…
真栄里
論理の問題だ。
死亡により発生する損害賠償請求権と同じことだ、被相続人が遺産をどうこうする権利を有しないというのは。
RIE
ふ〜ん
でも、被相続人が遺産についてなんの権利も持たないとしても、相続人には相続権がありますよね?
真栄里
それもない。遺産に対する自己所有権という考えからは。
RIE
え〜〜、どうしてですかぁ?
真栄里
遺産に関して相続人には何の権利もないからだよ。
RIE
答えになってないですよ。
真栄里
被相続人が生前有していた財産は被相続人の名義だったわけだから、その財産は被相続人の所有であって、相続人の所有であるわけじゃないだろ?共有だったと言うのなら話は別だが。
RIE
相続人は遺産に対して潜在的持分があるとかいえないですか?
真栄里
その考え方は相続権の根拠の一つになっている(中川善之助=泉久雄「相続法〔第4版〕」有斐閣)。
RIE
でしょ?
真栄里
だけど、その考え方は、”自己所有権”の考え方とは相容れない。
”潜在的持分”と考えるということは、権利の主体を個人ではなく、家族と考えることになるからだ。「家制度」の復活と見られてもおかしくない。
そういう考え方を戦後の日本は否定して個人主義になっているからな。
RIE
そしたら、遺産の所有者はいないことになりますよ?
遺産は無主物ということになりますけど?
真栄里
所有者のいない不動産は国庫に帰属するという民法239条2項によれば、不動産である遺産は国の所有ということになるだろうな。
RIE
あー、なるほど。
そうしたら遺産として放置されている空き家の問題はすぐに解決ですね!
真栄里
理屈の上ではな。
だが、相続制度を否定する考えが取り入れられるとは到底思えない。
相続制度は古くからあるからだ。
そういえば、コーランにも相続人や相続分の詳しい規定がある(「女人の章」7節、11節)し、旧約聖書にも相続の話がある(「アブラハムは、全財産をイサクに譲った」創世記25章5節)。
親が子を思う気持ち、子が親を思う気持ちと密接に結びついているのが相続制度じゃないかとも思うし。
だから、相続制度はなくならない。
頑張って相続人調査に励んでくれ。
RIE
結局その結論ですか…
今までの話が無駄だった気が…
真栄里
「無用の用」だ。
荘子は言ってる、

人皆知有用之用而莫知無用之用也
(人は皆有用の用を知るも、無用の用を知るなきなり)

RIE
漢字ばかり…
真栄里
目に見えて有用なものばかりを求めてはダメだ、無用と思われるものにも気を配らないと視野の狭い人間になるぞ!
RIE
先生のようにですね!(^○^)
真栄里
俺は視野が狭いことを自認しているからいいんだ(たぶん)!

---終---

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沖縄在住の特定行政書士、真栄里です。
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