業際問題

法律関係文書作成に関する日司連業務対策室の見解について<行政書士ってナニ? 業際編>全

業際問題
これは真面目に言っているようです…(嘘でしょ⁈)
月報 司法書士2024.5 No.627 『視点「先生!その書類作ってもらえますか?」~法律関係文書作成が気になる人のために~(企画・文責:日司連業務対策室)(以下、同座談会)66頁~77頁に掲載。

【存在から当為を導く誤謬】

業際問題を巡り、同座談会では、司法書士が“登記や裁判に直結しない法律関係文書”(以下、法律関係文書)を作成することができる根拠として、

・「企業側から当然のように求められています。」(同座談会68頁、國賀司法書士発言)
・「株式譲渡における契約書の案文作成は、…必須の業務となっています。」(同座談会68頁、國賀司法書士発言)
・「登記の有無にかかわらず、必須のもの」(同座談会68頁、谷口司法書士発言)
・「明文規定がなくとも司法書士業務と認められているものがある」(同座談会69頁、竹岡司法書士発言)
・「法律関係文書の作成は、ずっと以前から行われてきていたように思います。」(同座談会70頁、竹岡司法書士発言)

といった発言がなされています。
これらの発言は、現実に法律関係文書を作成する必要性、実際に業務をしているという事実についての発言で、この必要性と事実から司法書士が法律関係文書を作成する法的根拠があるという主張(実質論)です。この実質論は、同座談会を通じて一貫して主張されています。
この実質論の中でも特に事実を根拠とすることは危険です。現に法律関係文書を作成しているからといってその作成が法的に認められることにはならない存在から当為は出てこないですから。これらの発言は、存在から当為を導く論理です。
この論理に従えば、赤信号であっても青信号であるかのように皆で渡っていれば赤信号が青信号と同じ意味になることになりますが、皆が赤信号で渡っていても赤信号は法律上「止まれ」です存在と当為は峻別しないといけません。業務の法的根拠を問う業際問題で存在と当為の峻別を無視してはいけません。

【明文根拠の重要性】

士業がそもそも法律に基づく国家資格であることからすると、士業の行える業務には法的な明文の根拠が必要です。その点を同座談会は軽視しています(業際問題での重要部分なのですが)。

契約書など法律関係文書の作成の是非に迷った方から、「司法書士法のどこに根拠がありますか?」(同座談会77頁、山本司法書士発言)

という会員からの質問があったと紹介したうえで、回答として、

この考え方自体から少し抜け出していただかねばならない…(同座談会77頁、山本司法書士発言)

と発言し、

司法書士法第3条には司法書士の業務が定められていますが、別にそれ以外の業務をしてはいけないということでは決してない(同座談会77頁、山本司法書士発言)

と続き、

実際に我々司法書士は司法書士法第3条に規定されているよりも多種多様な業務をしていますから。(同座談会77頁、山本司法書士発言)

とあります。
同座談会では、独占業務以外の業務に根拠規定は不要だとしていますが、なぜ不要なのでしょうか?

士業は、ある業務について専門的知識を有する専門家であるとして法律で認められた資格です。専門的知識を有する専門家であると認められない業務についてはその業務を行えないのが当然です。

司法書士は「その業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家」(司法書士法(以下、法)1条)と定められており、「その他の」であるから「法律事務」の具体例として登記、供託、訴訟が挙げられており、「法律事務」は、登記、供託、訴訟に類似する事務に限定され、従って「法律事務」に法律関係文書は含まれません。

ですので、法上、司法書士は法律関係文書作成の専門家と認められていない(専門家の件については下記で改めて取り上げます)。
よって、司法書士は法の明文の根拠なく法律関係文書を作成することができないわけです。

なお、司法書士法施行規則(昭和53年法務省令第55号。以下、施行規則)31条に法3条の業務に加えて後見業務などの明文規定がありますが、施行規則は法務省令であって、法律よりも効力が下のその省令にすら法律関係文書についての明文がないことをここに指摘しておきます。
法で司法書士に法律関係文書の作成を認める明文がない以上、司法書士が法律関係文書を作成することについて国民の合意がないということです。
たとえ、施行規則にその明文があったとしても、法に明文がない以上、司法書士が法律関係文書を作成することについて国民の合意がないことに変わりはありません。法と省令の効力の違いはそれだけ大きいのです。
業際問題を検討する際にこの違いも忘れてはなりません。

【国民の権利を擁護してる?】

加えて、同座談会では、次のような発言があります。

明文の根拠を定めることで、司法書士が法律関係文書作成の専門家であることが一見して明らかになります。…対外的には、依頼者との関係で業務の責任が明確になります。仮に司法書士に過誤があれば、依頼者が司法書士の専門家としての責任を追及する際のよりどころとなりますし、裁判所も責任を認定しやすくなりますので、それを通じて依頼者の権利が保護されやすくなります。(同座談会72頁、谷口司法書士発言)

この部分も大問題です。
明文規定のない現在、司法書士が法律関係文書を作成しているのは、国民を危険にさらしているんだ、ということを司法書士自体が自認しているわけです。
依頼者との関係で責任が法上明確ではない司法書士に業務において過誤がある場合、国民が司法書士の責任を追及する明文上のよりどころがないわけで、裁判所も責任を認定しにくくなる、と自認しているわけですから、司法書士は国民(や裁判所)に負担を課したまま(危険にさらしたまま)法律関係文書作成を業務として行っているわけです
「国民の権利を擁護」(法1条)することを使命とする司法書士が国民の権利行使に負担を課しているのですからその使命に堂々と背く行為をしていると言わざるを得ません。

【裁判例が司法書士を法律関係文書作成の専門家と認めた?】

司法書士の専門性というものを導く際に、法令の条文だけに着目するのではない、という判断の方法(東京地方裁判所令和3年9月17日判決のこと―真栄里挿入―)に、私は強い興味を抱きました(同書69頁、谷口司法書士発言)

とありますが、
これは明文がないにもかかわらず事実上業務を行っている司法書士に対して、依頼者たる国民の権利を保護するために裁判所が苦肉の策で法令の条文以外を根拠としただけであって(明文がないわけですから当然そうなります)、このことをもって法令の条文だけに着目しないで法律関係文書を作成する資格を司法書士に与える、法律関係文書作成の専門性を司法書士に認めることに裁判所がお墨付きを与えたかのように判断することは当該裁判例の誤読です。
この誤読は、業際問題を検討する際に、自己に都合よく判例や裁判例を引き付ける常套手段ですのでそういった議論の仕方には注意が必要です。

ちなみに、
暴力団組長に使用者責任(民法715条)が認められるかが争われた最判平成16年11月12日は、下部組織の構成員がした殺傷行為が「事業の執行について」に該当すると判断して、組長の使用者責任を肯定しました。
ですが、
この判決をもってしても、暴力団の「威力を利用しての資金獲得活動に係る事業」が適法であると裁判所が認めたわけではありません。事実として行われている行為に損害賠償責任を認めたということを理由として裁判所がその行為を適法と認めたことにはならない、という“論理”をここに確認しておきます。
業際問題を論じる際には、論理も重要になります。

【懸念】

同座談会が日司連業務対策室の文責で企画されているので同座談会での発言が司法書士会の公式見解ではないのでしょうが、公的な刊行物である「月報 司法書士」に掲載されている以上、事実上日本司法書士会連合会の公式見解と同じなのかもしれません。
もしそうだとすると業際問題をめぐる由々しき事態だと思います。

---終---


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